分娩施設が近くにない地域の産院選び|全国の58.8%が空白地帯

執筆: 産婦人科と小児科の教科書 編集部

当サイトが全国1,892市区町村と分娩取扱1,876施設の位置を突き合わせたところ、域内に分娩施設が1つもない市区町村は1,113、全体の58.8%でした。そこで生まれる子どもは年間9万7,407人、全国の13.7%にあたります。およそ7人に1人が、住んでいる市区町村の外で生まれている計算です。この記事では、分娩施設が遠い地域での産院選びと備えを整理します。

市区町村の58.8%に分娩施設がない

当サイトでは、厚生労働省「出産なび」から分娩を取り扱うと確認できた1,876施設の所在地を、全国1,892市区町村(政令指定都市は行政区単位)に突き合わせました。その結果が次の数字です。

指標
域内に分娩施設がない市区町村1,113(58.8%)
そこで暮らす人口2,048万人
そこでの年間出生数97,407人(13.7%)
最寄りの分娩施設までの全国平均距離12.9km
最寄りまで30km以上/50km以上158市区町村/43市区町村

日本で生まれる子どものおよそ7人に1人が、住んでいる市区町村の中に分娩施設がない地域で生まれています。市区町村単位でこれを全国集計した資料は、公的機関を含めて存在しません。詳細は分娩施設へのアクセス分析出産環境白書2026に掲載しています。

「域内にない」=「遠い」とは限らない

ここで注意が必要なのは、域内に施設がなくても、隣の市に近い施設があれば実質的な負担は小さいという点です。

実際、都道府県別に見ると空白率と距離は必ずしも一致しません。奈良県は空白率79.5%ですが最寄りまでの平均距離は9.6km、和歌山県は76.7%で9.1kmです。隣接する市区町村に施設があるため、域内になくても距離は短くなります。

一方で北海道は空白率81.9%・平均25.1kmで、30km以上の市区町村を67抱えています。これは全国158市区町村の42.4%にあたります。

つまり自分の市区町村に施設があるかどうかより、最寄りまで実際に何分かかるかを見るべきだということです。地域ごとの状況はアクセス分析のページで確認できます。

遠い場合に確認しておく3つのこと

最寄りの分娩施設まで距離がある場合、次の3点を早い段階で確認しておくと安心です。

  1. 陣痛が始まってからの移動手段
    深夜や早朝に自分たちで移動できるか。タクシーが配車できる地域か。陣痛タクシーの登録制度がある地域もあります。冬季に積雪がある地域では、季節による所要時間の差も見ておく必要があります。
  2. 妊婦健診をどこで受けるか
    健診は妊娠後期には1週間に1回になります。分娩する施設まで毎回通うのが難しい場合、近くの産婦人科で健診を受け、分娩は別の施設という形が取れるか確認します(セミオープンシステム)。
  3. 早めに入院する仕組みがあるか
    予定日が近づいたら分娩施設の近くに滞在する形を取る方もいます。施設の近くに宿泊できる場所があるか、自治体に支援制度があるかを確認しておくと選択肢が増えます。

自治体の支援制度を調べる

分娩施設が遠い地域では、自治体が独自の支援制度を設けていることがあります。代表的なものは次のとおりです。

  • 妊婦健診や分娩のための交通費・宿泊費の助成
  • 陣痛タクシーの利用支援
  • 分娩施設の近くに滞在するための費用の補助

これらは全国一律の制度ではなく、実施している自治体とそうでない自治体があります。お住まいの市区町村の公式サイトで「妊婦 交通費 助成」などと検索するか、母子健康手帳の交付窓口で直接聞くのが確実です。

妊娠届を出すときにまとめて確認しておくと、後から探し直す手間が省けます。

里帰りという選択肢

分娩施設が遠い地域では、里帰り出産が現実的な選択肢になることがあります。里帰りは全国的にも珍しいことではなく、4〜5割という調査結果があります。

ただし里帰りには、里帰り先の施設の受け入れ条件、健診の補助券が使えるかどうか、紹介状の準備など、確認すべきことがあります。受け入れの締切が早い施設もあるため、妊娠がわかった段階で候補先に連絡しておくのが安全です。

詳しい手順は里帰り出産の準備と手続きで整理しています。健診の補助券の扱いは妊婦健診の費用と補助券もあわせてご覧ください。

この状況は今後も変わりうる

分娩を取り扱う施設は、長期にわたって減り続けています。2006年の3,098施設から2025年には1,856施設へと約40%減り、直近1年でも約100施設が分娩の取り扱いをやめています。

つまり今は近くにある施設が、数年後には分娩を扱っていない可能性があるということです。第2子以降を考えている場合、前回と同じ前提が成り立たないことがあります。

通っていた施設が分娩をやめた場合の対応は通っていた産院が分娩をやめたらで整理しています。現在の各地域の施設は全国の産婦人科を都道府県から探すページから確認できます。掲載は公的データにもとづくもので、最新の状況は各施設へ直接ご確認ください。

よくある質問

自分の市区町村に分娩施設があるか調べられますか?
当サイトの都道府県ページから市区町村ごとの施設を確認できます。また分娩施設へのアクセス分析のページでは、市区町村ごとの最寄り施設までの距離を掲載しています。
距離はどう計算されていますか?
市区町村の代表点と施設の位置との直線距離です。実際の移動距離や所要時間とは異なります。とくに山間部や離島では実際の移動時間が大きく変わるため、目安としてご覧ください。
分娩施設が遠い場合、早めに入院できますか?
施設の方針と妊娠の経過によります。医学的な必要があれば入院になりますが、距離を理由にした早期入院ができるかは施設によって異なります。健診の際に相談してみてください。
健診と分娩を別の施設にできますか?
セミオープンシステムなど、健診を近くの施設で受けて分娩は別の施設で行う仕組みがあります。ただし普及率は高くなく、連携している施設同士でないと成立しません。通っている施設に確認してください。
交通費の助成はどこの自治体にもありますか?
ありません。分娩施設が遠い地域を中心に、独自に制度を設けている自治体があります。お住まいの市区町村の公式サイトか、母子健康手帳の交付窓口で確認してください。

本記事は制度・費用・選び方に関する一般的な情報の整理であり、医学的助言ではありません。個別の症状・治療については、かかりつけ医・受診先の医療機関にご相談ください。制度・金額は記事内記載の時点の情報です。

あわせて読みたい

里帰り出産の完全ガイド|時期・転院・補助券の償還払いまで解説

里帰り出産の帰省・帰宅時期の目安、転院と分娩予約の段取り、妊婦健診補助券の他県利用と償還払い、出産育児一時金の扱い、夫側の準備までを公的情報をもとに解説します。制度は2026年7月時点の情報です。

セミオープンシステムとは|健診と分娩を別の施設で受ける仕組み

セミオープンシステムは、妊婦健診を近くの診療所で受け、分娩は連携する病院で行う仕組みです。仕組みの内容、利用できる条件、普及の実態、確認しておきたいことを整理しました。

分娩予約はいつまでに?|3分の2が妊娠11週までに決めている

分娩予約は約3分の2が妊娠3か月までに完了し、予約後に施設を変更した人は約7%です。妊娠がわかってからの数週間で出産する場所がほぼ決まるという実態と、限られた時間で確認しておきたいことを整理しました。