マタハラの法律上の定義|均等法9条3項と15条の2本立て

執筆: 産婦人科と小児科の教科書 編集部

マタハラという言葉は条文にはなく、法律上は2本立てです。事業主が妊娠・出産等を理由に解雇その他不利益な取扱いをすることは均等法9条3項が禁止し、上司・同僚の言動への対応は15条1項が事業主に防止措置を義務づけています。2026年10月1日から条番号が変わりました。指針の2類型、事業主が講ずべき措置、都道府県労働局の援助と調停を確認します。

マタハラは2本の義務に分かれる(不利益取扱いの禁止と防止措置)

「マタハラ」は法令の用語ではありません。e-Gov法令検索で均等法と育児・介護休業法を確認した範囲では、この語は条文に見当たりません。厚生労働省は、上司・同僚の言動を「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と呼び、事業主自身が行う「不利益取扱い」とは区別しています。

不利益取扱いの禁止ハラスメント防止措置義務
条文(2026年10月1日以後)均等法9条3項・4項均等法15条1項
誰の何を規律するか事業主が、妊娠・出産等を理由に解雇その他不利益な取扱いをすること職場での上司・同僚の言動で就業環境が害されないよう、事業主が措置を講じること
事由を定める省令施行規則2条の2施行規則2条の4

条番号の注意 均等法は令和7年法律第63号による改正が2026年10月1日に施行され、条番号が繰り下がりました。旧11条の3は15条、旧17条は23条、旧18条は24条、旧30条は36条です。施行規則の旧2条の3は2条の4になりました。9条、施行規則2条の2、育児・介護休業法の条番号は変わっていません(e-Govの施行日以後の版で確認)。

母性健康管理(旧12条・13条)は別の条です。母健連絡カードの記事で扱っています。

事業主の行為を止める条文:不利益取扱いの禁止(9条3項・4項)

均等法9条3項は、事業主が、女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法65条1項の休業を請求し又は休業をしたことなど、厚生労働省令で定める妊娠・出産に関する事由を理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定めています。

省令で定める事由は、施行規則2条の2に9号まで列挙されています。

号事由(要約)
1・2号妊娠したこと、出産したこと
3号妊婦健診等の時間の確保や、指導事項を守るための措置(均等法17条・18条1項)を求め、又は受けたこと
4号坑内業務・危険有害業務の就業制限(労働基準法64条の2・64条の3)
5〜8号産前産後休業(同法65条1項・2項)、軽易な業務への転換(同条3項)、時間外・休日・深夜業の制限(同法66条)、育児時間(同法67条)の請求、取得等
9号妊娠又は出産に起因する症状で労務の提供ができないこと、できなかったこと、労働能率が低下したこと

4項は解雇について特に定めています。妊娠中の女性労働者と出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇は無効です。ただし、事業主が、その解雇が3項の事由を理由とする解雇ではないことを証明したときは、この限りではありません。証明する側は事業主です。

産前産後休業の期間は産休はいつからで整理しています。個別の解雇や配置転換が9条に当たるかは、都道府県労働局へ相談してください。

上司・同僚の言動を対象にする条文:防止措置義務(15条1項)と指針の2類型

15条1項は、職場で行われる妊娠・出産等に関する言動により女性労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を、事業主が講じなければならないと定めています。

対象となる事由は施行規則2条の4です。2条の2と似ていますが、3号から8号に「求めようとし」「請求しようとし」といった文言が入っています。制度を使う前の段階の言動も、防止措置の対象事由に含まれます。

厚生労働大臣の指針(平成28年厚生労働省告示第312号)は、ハラスメントを次の2つに分けています。

類型言動の対象指針が示す典型的な例
制度等の利用への嫌がらせ型母性健康管理措置、就業制限、産前休業、軽易な業務への転換、時間外・休日・深夜業の制限、育児時間の利用の請求や利用上司が解雇その他不利益な取扱いを示唆する。上司が請求しないよう言う、請求を取り下げるよう言う。同僚が繰り返し又は継続的に請求しないよう言う。利用したことで上司又は同僚が繰り返し又は継続的に嫌がらせ等(嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、専ら雑務に従事させること)をする
状態への嫌がらせ型妊娠したこと、出産したこと、産後休業、妊娠・出産に起因する症状(つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等)で労務の提供ができないこと等上司が解雇その他不利益な取扱いを示唆する。上司又は同僚が繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をする

指針は、これらの例は限定列挙ではないと書いています。一方で、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて業務上の必要性に基づく言動は該当しないとしています。

個別の言動が当たるかは、都道府県労働局へ相談してください。

事業主が講ずべき措置(指針の内容)

指針は、事業主が講じなければならない措置を、次の5つにまとめています。

  • 方針の明確化と周知・啓発 ハラスメントがあってはならない旨の方針と制度を利用できる旨を、管理監督者を含む労働者に周知します。
  • 相談体制の整備 相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知します。当たるか微妙な場合でも、広く相談に対応するとされています。
  • 事後の迅速かつ適切な対応 事実関係の確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止です。事実の確認が困難な場合の例として、均等法24条に基づく調停の申請が挙げられています。
  • 原因や背景となる要因を解消するための措置 業務体制の整備など。周囲の労働者への業務の偏りを減らす分担の見直しが例です。
  • あわせて講ずべき措置 プライバシーの保護と、相談したこと等を理由とする不利益取扱いをしない旨の周知です。

15条2項は、労働者が相談を行ったこと、事業主の相談対応に協力して事実を述べたことを理由とする、解雇その他不利益な取扱いを禁じています。

育児休業等の場合は育児・介護休業法(10条・25条)

産前産後休業や妊娠中の措置は均等法、育児休業などは育児・介護休業法と、根拠法が分かれます。

均等法育児・介護休業法
不利益取扱いの禁止9条3項10条(育児休業の申出、取得等を理由とするもの)
防止措置義務15条1項25条1項
対象の労働者女性労働者労働者(男女)
対象の制度・事由妊娠、出産、産前産後休業など育児休業、介護休業、子の看護等休暇、介護休暇、所定外・時間外・深夜業の制限、短時間勤務などの措置(施行規則76条)

妊娠・出産等のハラスメントの指針は、育児休業等に関するハラスメントなどと複合的に生じることも想定されるとして、相談窓口を一体的に設けることが望ましいとしています。

育児休業の期間や延長の条件は育休はいつまで取れるかで確認できます。

相談先と紛争解決の手続き(労働局の助言・指導・勧告、調停)

社内に相談窓口がないとき、会社が対応してくれないときの相談先として、厚生労働省は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)を案内しています。事業主からの防止措置に関する相談も受け付けています。

妊娠・出産等に関する紛争は、個別労働関係紛争解決促進法の一部の規定に代えて、均等法22条以下の手続きによります。

手続き条文内容
紛争解決の援助均等法23条1項当事者の双方又は一方から解決の援助を求められたとき、都道府県労働局長は必要な助言、指導又は勧告ができる
調停均等法24条1項、25条1項当事者の双方又は一方から調停の申請があり、必要があると認めるとき、紛争調整委員会に調停を行わせる。調停は3人の調停委員が行う
勧告と公表均等法35条1項、36条厚生労働大臣は事業主に報告を求め、助言、指導、勧告ができる。従わないときは公表できる

育児休業等の紛争には、育児・介護休業法52条の4(援助)と52条の5(調停)があります。旧番号の均等法17条・18条は、2026年10月1日から23条・24条です。

よくある質問

マタハラは法律に書いてある言葉ですか。
いいえ。e-Gov法令検索で均等法と育児・介護休業法を確認した範囲では、条文に見当たりません。厚生労働省は「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と呼んでいます。
妊娠を理由に解雇されました。無効になりますか。
均等法9条4項は、妊娠中と出産後1年を経過しない女性労働者への解雇は無効と定めています。ただし、事業主が妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを証明したときは、この限りではありません。個別の事案の判断は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)へ相談してください。
同僚に産休を取らないよう繰り返し言われるのはハラスメントですか。
厚生労働大臣の指針は、同僚が繰り返し又は継続的に制度等の請求をしないよう言うことを、制度等の利用への嫌がらせ型の典型例に挙げています。個別の言動が当たるかは事情により判断されるため、労働局へ相談してください。
業務上の必要があって配置を変えるのもマタハラですか。
指針は、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて業務上の必要性に基づく言動は、妊娠・出産等に関するハラスメントに該当しないとしています。個別の判断は労働局へ相談してください。
パートや契約社員でも対象ですか。
指針は、対象の労働者に、パートタイム労働者、契約社員等の非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する労働者の全てが入るとしています。
会社に相談窓口がないときはどこに相談しますか。
厚生労働省は、社内に相談窓口がないときや会社が対応してくれないときの相談先として、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)を案内しています。
労働局に相談したことで不利益な扱いをされませんか。
均等法23条2項は、労働者が労働局長の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁じています。調停の申請についても24条2項に同じ定めがあります。

本記事は制度・費用・選び方に関する一般的な情報の整理であり、医学的助言ではありません。個別の症状・治療については、かかりつけ医・受診先の医療機関にご相談ください。制度・金額は記事内記載の時点の情報です。

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