出産費用の医療費控除|妊婦健診も対象、10万円を超えた分の計算と確定申告

執筆: 産婦人科と小児科の教科書 編集部

妊婦健診や分娩・入院の費用は、保険がきかない正常分娩でも医療費控除(所得税法73条)の対象です。対象になる費用とならない費用、出産育児一時金など補填された金額を差し引く計算、確定申告と5年前までさかのぼれる還付申告を、国税庁の資料に沿って整理します。

妊娠・出産の年は医療費控除を受けやすい

医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費が一定額を超えるときに、確定申告をすると所得税の負担が軽くなる仕組みです。自分の分だけでなく、生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費も合算できます。

正常な経過の分娩は公的医療保険の対象外ですが、医療費控除は税の制度なので考え方が別です。妊婦健診や分娩・入院の費用は、保険がきかなくても医療費控除の対象になります。

妊娠・出産の年は、健診の積み重ねと分娩・入院費でまとまった支出になりやすく、控除を受けられる可能性が高い年です。対象になる費用とならない費用を先に整理しておきましょう。

対象になる費用の一覧

国税庁のタックスアンサーでは、出産に関して次のような費用が医療費控除の対象として示されています。

  • 妊娠と診断されてからの定期検診(妊婦健診)や検査の費用
  • 健診や通院のための電車・バスなど公共交通機関の交通費
  • 出産で入院するときに、電車やバスでの移動が難しいため利用したタクシー代
  • 分娩費・入院費(医師による診療のほか、助産師による分娩介助の対価も対象です)
  • 入院中に病院から提供される食事代
  • 出産後の検診の費用(健康診断の対価にすぎないものは除きます。産後健診の自己負担分が典型です)

通院費用は領収書が出ないことが多いため、日付・区間・金額を家計簿などに記録しておけば認められます。なお、妊婦健診で受診票(補助券)により公費負担された分は自分で支払っていないため、対象になるのは自己負担した部分です。健診費用の仕組みは妊婦健診の費用で整理しています。

対象にならない費用

一方、次の費用は対象にならないとされています。

  • 里帰り出産のために実家へ帰省する交通費
  • 自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代
  • 入院のために購入した寝巻きや洗面具などの身の回り品
  • 入院中に取った出前や外食
  • 腹式呼吸などを習う無痛分べん講座の受講費用(医師による診療等の対価ではないため)

「診療や分娩に直接必要な支出かどうか」が線引きの目安です。根拠は所得税法施行令第207条(医療費の範囲)で、国税庁の質疑応答事例でも、妊婦の定期検診は対象、無痛分べん講座は対象外と示されています。判断に迷う費用があるときは、領収書を残したうえで税務署に確認するのが確実です。

出産育児一時金は差し引いて計算する

医療費控除の額は、次の式で計算します(最高200万円)。

支払った医療費の合計 − 保険金などで補填される金額 − 10万円(総所得金額等が200万円未満の人はその5%)

ここで重要なのが「保険金などで補填される金額」です。国税庁は例として、出産育児一時金や高額療養費、生命保険契約の入院給付金などを挙げています。出産育児一時金(原則50万円)を受け取った場合は、出産費用からその分を差し引いて計算します。帝王切開などで高額療養費の払い戻しを受けた場合も同じです。自治体から医療費の助成(不妊治療費の助成や子どもの医療費助成など)を受けた分も、その医療費から差し引きます。

一方、出産手当金は休業中の給与の減額を補うもので、医療費を補填する性格のものではないため、差し引く必要はありません(所得税基本通達73-9)。また、補填される金額がその医療費を上回っても、引ききれない分を他の医療費から差し引く必要はありません。差し引くのは「その給付の目的となった医療費」が限度とされています。

計算の根拠は所得税法第73条第1項です。たとえば分娩・入院費55万円、妊婦健診の自己負担3万円、通院の交通費1万円で、出産育児一時金50万円を受け取った場合は、(55万円−50万円)+3万円+1万円=9万円です。家族の医療費を合わせて10万円を超えるかどうかが分かれ目になります。

確定申告の手順

医療費控除は年末調整では受けられないため、会社員でも確定申告が必要です。流れは次のとおりです。

  • 医療費の領収書と、加入する健康保険から届く医療費通知を集める
  • 領収書をもとに「医療費控除の明細書」を作成する(医療費通知を添付すると明細の記載を簡略化できます)
  • 確定申告書に明細書を添付して、所轄の税務署に提出する(e-Taxでの申告もできます)

領収書そのものの提出は不要ですが、確定申告期限から5年間は自宅で保存し、求められたら提示できるようにしておきます。

申告し忘れても5年前までさかのぼれる

会社員など、本来は確定申告をする必要がない人が医療費控除で税金を取り戻す申告は還付申告と呼ばれます。国税庁によると、還付申告書は確定申告の期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。

たとえば2026年に支払った出産費用は、2027年1月1日から2031年12月31日まで申告できます。出産の翌春は手続きが重なりやすいので、領収書と医療費通知をまとめて保管しておき、落ち着いてから申告しても間に合います。

なお、還付されるのは源泉徴収などですでに納めた所得税の範囲です。産休・育休で給与がない期間が長い年は納めた所得税が少なく、戻る額も小さくなることがあります。

年をまたぐ出産と迷いやすいポイント

医療費控除は「支払った年」で判定します。年末に入院して年明けに出産した場合は、それぞれの年に支払った額で別々に計算します。

迷いやすいのは次のような点です。

  • 生計を一にする家族の医療費は、実際に支払った人がまとめて控除を受けられます
  • 帝王切開になった年は保険診療の自己負担も加わるため、対象額が大きくなりがちです(帝王切開の費用)
  • 総所得金額等が200万円未満の人は、差し引く額が「10万円」ではなく「総所得金額等の5%」になるため、収入が少ない年でも控除できることがあります

制度の細部は国税庁タックスアンサー(No.1120・No.1122・No.1124)に整理されています。最終的な判断に迷う場合は税務署にご相談ください。

なお、子どもの予防接種の費用は医療費控除の対象になりません。病気の治療ではなく予防のための費用にあたるためです。この扱いは予防接種は医療費控除の対象になる?で詳しく扱っています。妊婦健診そのものの回数と時期は妊婦健診は何回受ける?をご覧ください。

よくある質問

妊婦健診の費用は医療費控除の対象になりますか?
妊娠と診断されてからの定期検診や検査の費用は対象です。受診票(補助券)で公費負担された分は支払っていないため含められません。自己負担した分を集計してください。
出産育児一時金を受け取ったら医療費控除は受けられませんか?
受けられる場合があります。一時金は出産費用から差し引きますが、差し引いてなお残る自己負担や、妊婦健診・通院費・家族の医療費を合わせて一定額を超えれば控除の対象になります。
出産手当金も差し引く必要がありますか?
ありません。国税庁は、出産手当金は医療費を補填する性格のものではないとしています。差し引くのは出産育児一時金や高額療養費、医療保険の入院給付金などです。
領収書は提出が必要ですか?
提出は不要で、「医療費控除の明細書」を作成して確定申告書に添付します。ただし領収書は確定申告期限から5年間の保存が必要です。通院交通費のように領収書がないものは、家計簿などに記録を残しておきます。
12月に入院して1月に出産した場合はどうなりますか?
医療費控除は支払った年ごとに計算します。年内に支払った分はその年の、退院時など年明けに支払った分は翌年の医療費として扱います。
出産の医療費控除は何年前までさかのぼって申告できますか?
会社員などが税金を取り戻すための還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。2026年に支払った出産費用なら2031年12月31日までです。
無痛分娩の講座の費用も医療費控除の対象ですか?
国税庁は、腹式呼吸などを習う無痛分べん講座の受講費用は、医師による診療等の対価ではないため対象外としています。分娩そのものの費用や、医師の診療として支払った費用は対象です。

本記事は制度・費用・選び方に関する一般的な情報の整理であり、医学的助言ではありません。個別の症状・治療については、かかりつけ医・受診先の医療機関にご相談ください。制度・金額は記事内記載の時点の情報です。

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