差額ベッド代とは|請求できない3つの場合と、出産入院での考え方

執筆: 産婦人科と小児科の教科書 編集部

個室や少人数の病室に入ったときに請求される「差額ベッド代」は、正式には特別療養環境室料といいます。厚生労働省の通知では、部屋の要件と、患者に請求してはならない場合が具体的に定められています。この記事では、そのルールと、正常分娩・帝王切開で扱いがどう変わるか、医療費控除との関係を整理します。

差額ベッド代は「選定療養」のひとつ

差額ベッド代の正式な呼び名は「特別療養環境室料」です。健康保険では、保険が使えない費用と保険診療を組み合わせる場面を保険外併用療養費制度として整理しており、特別の療養環境の提供(差額ベッド)は、そのうちの「選定療養」にあたります

選定療養とは、患者が自分の希望で選んで追加の負担をするものを指します。つまり差額ベッド代は、患者が選んだ場合にだけ発生する費用という位置づけです。この点が、あとで述べる「請求できない場合」の根拠になっています。

特別療養環境室には4つの要件がある

どんな部屋でも差額ベッド代を取れるわけではありません。厚生労働省の通知では、次の4つの要件をすべて満たす必要があるとされています。

要件
1一の病室の病床数が4床以下であること
2病室の面積が1人当たり6.4平方メートル以上であること
3病床ごとにプライバシーの確保を図るための設備を備えていること
4特別の療養環境として適切な設備を有すること

個室だけでなく、2〜4人部屋も対象になりうるということです。また、差額ベッドにできる病床数には上限があり、原則として保険医療機関の病床数の5割までとされています。国が開設する医療機関は2割以下、地方公共団体が開設する医療機関は3割以下です。

料金は、院内の見やすい場所に病室ごとのベッド数・場所・料金を掲示することとされ、あわせて原則としてウェブサイトへの掲載も求められています。

請求してはならない場合が定められている

通知では、患者に特別療養環境室に係る特別の料金を求めてはならない場合として、次の3つが挙げられています。ここが差額ベッド代でもっとも重要な部分です。

  1. 同意書による同意の確認を行っていない場合。同意書に室料の記載がない、患者側の署名がないなど、内容が不十分な場合を含みます。
  2. 患者本人の治療上の必要により入室させる場合。病状が重篤で安静を必要とする場合、常時監視を要する場合、感染症にかかるおそれがあり免疫力が低下している場合などが例として示されています。
  3. 病棟管理の必要性等から入室させ、実質的に患者の選択によらない場合。院内感染を防ぐために入室させた場合のほか、「特別療養環境室以外の病室が満床であるため入室させた患者の場合」が明示されています。

同意の確認は、料金等を明示した文書に患者側の署名を受けることによって行うとされ、その文書は医療機関が保存することとされています。口頭の説明だけで請求することは想定されていません。

また、治療上の必要がなくなった場合には、患者の意に反して入室が続かないよう、あらためて同意書で意思を確認するなどの配慮を求めています。

正常分娩の入院では、このルールがそのまま当てはまらない

ここが出産で混乱しやすい点です。選定療養は、保険診療と組み合わせて提供されるときの仕組みです。正常分娩の入院は公的医療保険の給付の対象外で、費用全体が保険外のため、産院の個室料はこの枠組みで規制される差額ベッド代とは性質が異なります。

整理すると次のようになります。

入院の内容個室料の位置づけ
正常分娩保険給付の対象外。室料を含む費用は各施設が定める
帝王切開・切迫早産の管理入院など保険診療での入院選定療養にあたり、上記のルールが適用される

つまり同じ産科の入院でも、保険診療かどうかで個室料の扱いが変わります。帝王切開になった場合は、同意書がないまま個室料を請求されることはありません。費用の内訳の読み方は出産費用の内訳の読み方、帝王切開の費用は帝王切開の費用で整理しています。

なお、出産費用のあり方は制度として見直しが進んでいます。動きは正常分娩の保険適用にまとめました。

医療費控除との関係

医療費控除では、入院の対価として支払う部屋代や食事代のうち、通常必要なものが対象になるとされています。一方で、本人や家族の都合だけで個室を希望した場合の差額ベッド代は対象になりません。医療上の必要があって個室に入った場合は、入院に通常必要な費用として扱われます。

先に述べたとおり、治療上の必要で入室した場合はそもそも差額ベッド代を請求できません。請求されていない費用は控除の対象にもならないため、まず請求の可否を確認するのが順序として先になります。

出産にかかる医療費控除の全体像は出産・妊婦健診の医療費控除をご覧ください。

入院前・請求時に確認したいこと

納得して支払うために、次の点を確認しておくと迷いません。

  • 入院前:個室・少人数部屋の料金と、部屋のタイプごとの金額(掲示やウェブサイトで確認できます)
  • 入院時:署名する同意書に室料の金額が記載されているか
  • 入室時:自分の希望による入室か、施設側の都合による入室か
  • 請求時:請求書の室料が同意した金額と一致しているか

満床のために個室に入った場合や、治療上の必要で個室に入った場合は、請求してはならない場合に該当します。説明に納得できないときは、医療機関の相談窓口や、加入している健康保険の窓口に確認できます。各都道府県には医療安全支援センターが設置されており、医療に関する相談を受け付けています。

よくある質問

差額ベッド代とは何ですか?
正式には特別療養環境室料といい、保険外併用療養費制度の「選定療養」にあたります。4床以下、1人当たり6.4平方メートル以上などの要件を満たす病室を、患者が自分の希望で選んだ場合に発生する費用です。
満床のために個室に入った場合も支払う必要がありますか?
厚生労働省の通知では、特別療養環境室以外の病室が満床であるために入室させた場合は、特別の料金を求めてはならない例として挙げられています。実際の判断は事情を確認したうえで行われるため、医療機関に確認してください。
同意書がなくても請求されることがありますか?
同意書による同意の確認を行っていない場合は、請求してはならない場合として挙げられています。同意の確認は、料金等を明示した文書に患者側の署名を受けることによって行うこととされています。
出産で個室にした場合も差額ベッド代のルールが適用されますか?
正常分娩の入院は公的医療保険の給付対象外のため、この枠組みがそのまま当てはまるわけではなく、室料は各施設が定めます。帝王切開など保険診療での入院であれば、選定療養のルールが適用されます。
差額ベッド代は医療費控除の対象になりますか?
本人や家族の都合だけで個室を希望した場合は対象になりません。医療上の必要があって個室に入った場合は入院に通常必要な費用として扱われますが、その場合はそもそも請求できないケースにあたることがあります。

本記事は制度・費用・選び方に関する一般的な情報の整理であり、医学的助言ではありません。個別の症状・治療については、かかりつけ医・受診先の医療機関にご相談ください。制度・金額は記事内記載の時点の情報です。

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